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人はずっと幸せではいられないようにできている『われわれはなぜ噓つきで自信過剰でお人好しなのか』

2023年1月16日

進化心理学を知っていますか?

進化心理学とは、人間の心理メカニズムを進化の視点から研究することです。現在の私たちからすると不合理に見える行動でも、人類の進化の視点で見ると合理的な行動だったと分かることが少なくありません。

会社内のマウンティングを考えてみましょう。会社などの集団は多くの人が集まることで一人の力では達成できないことを実現することができます。集団内で協力しあうことは人の共通の利益になりますが、マウントの取り合いは損失を生み出すだけです。

しかし、現実では組織で一致団結している状態は珍しく、お互いにマウンティングを取り合い、相手の手柄になるくらいなら組織全体の利益すらも損なうことを許容します。これはなぜなのでしょうか。

進化心理学の視点から答えると、相手を打ち負かして優位な立場に立つことで多くの資源やより良いパートナーを得ることができるからです。現在では地位、年収、フォロワー数などが有利な立場にいることを示していると言えるでしょう。このように進化心理学の観点から見ると、疑問が解決することが少なくありません。

オーストラリアのクイーンズランド大学で心理学を教えているウィリアム・フォン・ヒッペル先生が書いた『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略』が進化心理学を分かりやすく解説してくれていたので、重要だと思ったポイントを紹介します。

生まれと育ちのどちらが重要?

個人の能力は遺伝、環境によって決まるかという議論がありますが、実際は遺伝子、環境、個人的な選択の相互作用に決まります。つまり、どちらが正しい答えというわけではなく、能力に影響を与えるのはすべての要因ということになります。

近視は親から遺伝する遺伝性の強い現象ですが、環境に左右されることが分かっています。スマホやパソコンを長時間使用する現代の環境では近視を発症する人が急増しています。狩りや遊牧のために遠くを見る狩猟採集民として暮らす人は近視の遺伝子を持っていても近視になることはほとんどありません。

ちなみに日本の文部科学省の調査によると、スマホやパソコンを長時間使用する現代の環境では近視を発症する人が、小学生は16%から34.6%で2.16倍、中学生は33%から57.5%で1.74倍、高校生で49%から67.6%で1.37倍となっています(1978年度と2019年度の比較)。40年で近視の遺伝子が急増したとは考えにくいため、やはり遺伝子だけでなく環境が関係しているということが言えそうですね。

個人の体格、能力、精神状態さえも遺伝子、環境、個人の選択によって左右されます。遺伝子の影響も考慮しつつ、現実に変えることができる環境や自分の行動を最適化するのが良いでしょう。

人の脳は協力するために大きくなった

人の脳が大きくなったのは集団で協力するためだという「社会脳仮説」に大半の科学者は同意しています。実際には協力するだけでなく、集団内での社会的な問題に対するために約束、ルール作り、騙す、嘘を見破る、報復なども脳の進化の圧力になったと考えられています。さらにチーム内の協力によって得たイノベーションに対応するために、もっと大きな脳が必要になったというサイクルを繰り返して、人は利口になったとのこと。

協力して狩りをするには、共通の認識があったほうが有利なため、人には大きな白目があり、視線が誰にでも分かりやすくなっています。仲間同士で狩りの目標を目でアイコンタクトを知らせたり、逆に人間を獲物にする動物からの危険を察知したりと注意を共有することでチームプレイを効率よくできるんですね。一方で、個人志向のチンパンジーは黒目が大きく、さらに白目は茶色いために視線の先が分からないようになっています。

人は協力し合うために脳が大きくし、身体的な特徴も変化させたんですね。

人が二足歩行した理由

人が直立して歩くようになった理由は様々なものが考えられます。例えば、長い距離を歩くときは、四足歩行よりも二足歩行のほうが消費カロリーが少なくすみます。二足歩行は最低限のカロリー消費で移動できるというメリットがあるんですね。

人が二足歩行する最大の要因とされているのは、外敵から自分を守るために武器を持つ必要があったからだそう。サバンナのような見通しの良い場所では隠れたり、木の上などに逃げたりできないため、ライオンや熊に襲われたらひとたまりもありませんよね。そのような恐怖が人に二足歩行するように進化させたのではないか?と考えられているわけですね。

二足歩行で武器を携帯することで外敵に対処していたんですね。また、食べ物や道具も運ぶことができ、時間をかけてより良い物を作る動機にもなりました。

二足歩行のほうが消費カロリーが少ないという点が気になったので調べてみたところ、アリゾナ大学らが人とチンパンジーにウォーキングマシンに歩かせて、歩行に必要なエネルギーを測定した研究がありました。その研究結果によると、人が二足歩行時の必要エネルギーは、チンパンジーが四足歩行と比べて、4分の1だったことが分かったとのこと。

集団間では対立し、集団内で協力するように進化した

人は集団内のメンバーには協力的ですが、他の集団のメンバーには非協力的です。これは人が食物連鎖の頂点に立ったとき、一番の敵となったのは人であったことが関係しています。

集団内での協力は生きるために必須でした。しかし、外部集団との交流は新たなパートナーを増やすチャンスとなる一方で、争いになるという危険性を伴います。資源のための縄張り争い、戦につながるだけでなく、新たな病原菌の感染などの可能性がありました。

外部との接触はギャンブルに近いもので最悪の場合には自分が属する集団が絶滅するリスクに晒されてしまいます。そのため、外部集団と接するときに集団内のメンバーと同じように協力的ではいられなくなりました。

ただし、共通の目的があれば同盟や貿易などの集団同士で協力しあうこともできます。実際のところ、相手が脅威なのか、チャンスをもたらす存在であるかにかかっています。

また、外部の脅威があるときは集団内の結束が特に高まり、外部の脅威がなくなると集団内で争いが増えるとのこと。国の指導者はそのような人の傾向を利用して、自分自身の支持力の低下や国内・政党内の問題を抱えていると外国に対して批判を強めたりすることで注意を外部に逸らそうとします。確かに歴史上でも戦争がひとたび始まると、国民が一致団結するということはよく見られますよね。

なぜ人間はいつも幸せではないのか?

一生お金に困ることがなければ、幸せに暮らせると考える人は多いと思います。しかし、宝くじに当選したとしても1~2年経過すると幸福度は当選する前に戻ってしまいます。なぜ、人はずっと幸せでいられないのでしょうか?

この問いに対する答えは、繁殖を目的とする遺伝子にとって、幸せは人の行動を促す道具にすぎないからです。

もし人がこれ以上ないくらいの幸せが永続したら、もっと大きな目標を達成しようというモチベーションが失われます。そうなると遺伝子はより多くの子孫を残せなくなってしまいます。そのため、良いことがあると幸福度が一時的に上がりますが、徐々に基準値まで下がるようになっているんですね。

進化論的には永遠の幸せは手に入れることはできないし、望ましくもないのです。確かに心から現状に満足できたら、新たに行動しようとあまり思わない気がしますね。幸せへの渇望が人を進化させてきたと言えそうですね。

楽しい人生にたどり着くための「簡単なステップ」

進化論的に幸せになるアプローチを紹介します。永遠の幸せは持つことは不可能なので、いかに幸せそのものを理解して、アクセスしやすくすることが大切ですよ。

  1. 現在を生きる:人は将来を生きようとするため、今の瞬間を楽しめない。喜びを与えてくれる今という瞬間を意識的に味わう必要がある。そのため、マインドフルネス、瞑想が役に立つ。
  2. 心地よいひとときを探す:永続的な幸せは不可能だが、人生を楽しむことを否定するものではない。楽しめる活動を探そう。
  3. 幸せを護って健康を保つ:健康を保つためには、免疫機能を高めてくれる幸せは不可欠。幸せを短期的に犠牲にすることは時にメリットとなるが、長期的な犠牲はデメリットとなる。短期的な犠牲がずっと続いて長期的な犠牲になると幸せと健康は消え去る。目標を達成するために自分を犠牲にするときは、期限・時間を決めて必ず護るようにする。
  4. すばらしい経験を蓄積する:素晴らしい経験はすぐに消える一過性のものではなく、ずっと人生の役に立つ。思い出を忘れないためにも、写真やグッズを残しておこう。過去の時間を追体験して、幸せなひとときを過ごすことができる。
  5. 協力する:目標を達成するために他人と協力し合うことは、人生の満足度を高める。幸せは余暇や好きなこと以外にも仕事から得ることができる。共通の目標のために協力し合うことは進化論的に幸せになるための重要なアプローチになる。
  6. 新しいことを学ぶ:学習でも幸せになることができる。人は一生のあいだ、学習しながら生きる。特に遊びとストーリーテリングは学習の役に立つ。
  7. 幸せの原型を探す:現代の幸せは古代の幸せが変化したものがほとんど。中には無害なものもあるが、有害なものもある。現代の幸せよりも古代の幸せの原型のほうが幸福をもたらす。幸せの最良のレシピは家族や友達と一緒に過ごす時間である。

まとめ:進化心理学は人の本質を知るための手がかり

進化心理学を学ぶことで、人の本質を知る手助けになります。人の心理を理解しやすくなるのでコミュニケーションが楽になりますし、様々な場面での集団や個人での振る舞い方が分かります。

個人的には幸せは永続しないという部分が参考になりました。幸せを追い求めるのではなく、自分にとって意味がある活動をしようという研究も増えていますからね。毎日、小さな目標を達成しつつ、ちょっとした娯楽で楽しみを味わおうと思います。

「われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略」では、他にも集団と個人に利益をもたらすリーダーシップ、農耕から生まれた私有財産の格差、異性からモテる要素などを進化論の視点で解説しています。気になる方は本書をお読みください。

進化心理学のおすすめ本

われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略

われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略
こちらの本は進化心理学による人間の本質を学べます。進化心理学とは、人間の心理メカニズムを進化の視点から研究する学問分野です。
ここまで繁栄した人間の進化はどのようにして起こったのか、異性にモテるための条件、効果的なリーダーシップ、人の遺伝子と幸せなどのテーマを幅広く教えてくれます。
人の根本的な性質や心理、進化心理学について知りたいという方におすすめの本です。

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