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脳は絶えず変化し続ける!「ライブワイヤード」の力を最大限に引き出す方法

あなたは今、この文章を読んでいる間にも、脳は変化しつづけています。
スタンフォード大学で「脳の可塑性」を教える神経科学者のデイヴィッド ・イーグルマン先生によると、脳は「ライブワイヤ―ド(生きている装置)」であると述べています。

脳の驚くべき特徴は、現在の状況や行動に応じて、自らの脳や神経ネットワークをリアルタイムで常に変化させていることです。脳の仕組みを知ることで、学問、スポーツ、仕事、コミュニケーションなどのスキル・知識をより効果的に身に付けるようになります。

本記事では、

  • 脳と神経細胞の仕組み
  • 脳の驚くべき変化の速さと柔軟性
  • ライブワイヤ―ドの活用方法

を紹介します。ライブワイヤ―ドの活用方法では、脳の仕組みを踏まえて、どのように行動すればいいのかを紹介しています。

私はライブワイヤ―ドを知ったことで、人生でのやりたいことの後回しをやめて、すぐに始めるようになりました。おかげで毎日が少し楽しくなりますし、日々が充実するようになりましたよ。

脳は生きて絶えず変化している共同体

人の脳は約860億個の細胞でできており、この細胞はニューロンと呼ばれ、電気パルスを伝えて情報をやり取りしています。ニューロンどうしは密につながっており、森のような入り組んだネットワークを作っています。頭の中にあるニューロン間の接続の数はとてつもなく多く、合計200兆個にものぼります。

脳を興味深いモノにしているのは、ニューロンの相互作用です。一般的には、脳は領域ごとに決まった仕事(視覚、聴覚、セルフコントロール、計算、推論など)をしていると説明されています。しかし、この説明は大切なところを見落としています。それは脳は動的なシステムであって、行動や環境に応じて自らの回路を絶えず変化させているということです。脳は何兆という生物が絡み合った、生きている共同体のようなものなのです。

脳は作業の効率を高めるために、ニューロンを生成したり、接続パターンを変えたりして、自らを調整しています。あなたは一年前のあなたと同じ人間ではありません。なぜなら、趣味でマラソンを始めた、仕事中に人前で上司に怒られた、英語を勉強したといった日常の出来事で、脳は物理的に変化しているからです。

脳のこうした無数の変化が、数分、数か月、数十年をかけて蓄積されて、その総和があなたという存在になっています。 昨日のあなたは今とは少し違いますし、明日のあなたはまた別の人になります。

脳は目もくらむ速さで変化し、資源の配分を変えている

脳はほんのわずかな時間でも神経の再編成が起こり、変化していきます。被験者に目隠しをし、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)に入ってもらい、指での細かい識別を要する触覚課題をしてもらうという研究では、わずか40~60分の目隠し作業を終えただけで後頭葉(通常、視覚を処理している領域)に活動が現れました。そして、目隠しを外すと後頭葉が触覚に反応する現象は1日で消えました。脳内の地図はリアルタイムで書き換えられていて、経験がすぐに脳構造に反映されているんですね。

脳には困難や目標などに応じて、資源の配分を調整したり、必要なのに足りないものがあれば自ら作り出したりする能力があります。ピアニストになると指の動きに関する脳領域が大きくなりますし、タクシーの運転手は空間を把握する脳領域が肥大化します。ある活動に熱心に打ち込めば、関連する脳領域は増えていき、スキルが向上していきます。

常に変化し続けることが脳にとって優れた戦略となる理由は、環境への適応力を高める、処理の効率化・速度向上につながるからです。生まれた瞬間から脳が変化しなければ、新たな状況に直面しても対応できないですよね。

脳の驚くべき柔軟性

脳は驚異の柔軟性を持っています。特定の活動に費やす時間が多いほど、それに費やす脳の領域を拡大し、しなくなった活動に関する脳の領域は縮小していきます。では、脳はどこまで柔軟性があるのでしょうか。

盲目の人であっても目以外の体の器官を使って、目の前の状況を感覚的に見えるようにできることが分かっています。カメラが捉えた映像(暗さや物体)の特徴に応じて皮膚(背中や額など)に刺激を与えると、対象物との距離、形状、動きといったことを感覚的に認識できるようになります。

人工的な機械によって視覚に代わる情報を人の体に与えると、脳が上手くパターンとして認識して見えるようになるんですね。他の感覚器官である聴覚などにも応用ができるようになっています。聴覚では音をデータ化して皮膚に刺激を与えると、生まれつき耳が聞こえない人でも聞こえるようになります。脳にはすごい柔軟性がありますよね。

マット・スタッツマンは両腕のない状態で生まれました。アーチェリー選手として弓と矢を両足で操作する方法を身につけ、最も遠い的に命中させたとしてギネス世界記録の保持者になっています。他にも、フェイスという犬は前足のない状態で生まれましたが、人の二足歩行のように、後ろ足だけで歩けるようになりました。サーフィンやスケートボードができる犬もいます。

さらに、ニール・ハービソンという色覚以上を持つ芸術家は色を音に変換する装置を身に付け、人が知覚できない可視光以外の光の波長(赤外線や紫外線)も知覚することができます。他にもVRで第三の腕をコントロールできるようになり、尻尾を動かすことも可能で、将来的には科学技術でスーパーヒーローみたいな能力も現実に再現できるかもしれません。

これらのことから、脳は初めから体を特定の動きや機能として扱うように定めているわけではないことが分かります。それどころか、脳は柔軟に変化し、人が生まれつき持っていない人工物を取りつけて能力を拡張することができます。

脳の絶えず変化するシステム「ライブワイヤード(生きている装置)」

脳は自らの行動や外部の出来事によって変化し、その新しい形を維持できるシステムです。このことを「脳の可塑性」もしくは「神経可塑性」と言います。

脳の可塑性という言葉は一度変化するとその状態が永続するかのような印象を与えるので、神経科学者のデイヴィッド・イーグルマン先生は、脳が変化し続ける「ライブワイヤ―ド」という言葉を採用しています。脳は生きている限り常に変化と適応をするような「生きている装置」ようなものなのです。ライブワイヤ―ドは人の能力は努力次第で向上していくという成長マインドセットを補強するものとも言えますね。

ライブワイヤ―ドの概念を知ると、私たちにとって大切なことは自分がどのような人間であるかではなく、どのような人間になりたいかということが分かってきます。なぜなら、脳は自分の行動と周囲の環境によって常に変化しているからです。あなたが悪い行動をすれば脳は望まない変化を遂げますし、良い行動をすれば脳に良い変化を起こすことができるのです。

「ライブワイヤード」を活かすために大切なこと

良い経験をする

DNAは「人を未完成のまま誕生させて、誕生後の環境や経験に応じて脳を調整する」という賢い戦略をもっています。多くの人はDNAを人間の設計書のように考えがちですが、実は人生のスタート地点にしか過ぎません。どこに向かうかは環境と行動次第です。

そのように考えると、良い経験がどれだけ大切なのかが分かりますね。良い経験をするためには、以下のテクニックが有効です。

  • 行動を変える:自らの価値観に沿って、悪い行動は減らし、良い行動を増やしましょう。Xしたら、Yするというように事前に計画を立てて行動する「If-Thenプランニング」は、200以上の研究により300%高い確率で目標や目的を達成できることが研究で分かっています。行動を変えるかなり強力なテクニックの1つですので、試しておいて損はありません。
  • 環境を整える:自らが望む行動が取れるような環境を作り出します。このことを「行動デザイン」といい、ジュネーブ大学の研究で人の行動を変えるのに効果的な手法であることが判明しています。具体的には、望ましい行動をデフォルトにする(食事するときは必ずサラダをつける、睡眠時間を8時間取れるように寝る時間になったらスマホを使えないようにする)、行動にかかるリソース量の調整(やりたい行動は手間を減らして、やめたい行動は手間を増やすようにする。ゲームをやめたい場合はスマホアプリをアンインストールしたり、ゲーム機器を目につかない取りずらい位置に置く)、といいでしょう。

小さな行動にしたり、早起きして自分のやりたいことをしたりするのもおすすめです。コートダジュール大学らの研究によると、朝の行動のほうが夕方よりも習慣化しやすいことが判明しています。朝一は集中力が高く、誰にも邪魔されずにタスクをこなせますよ。

脳は常に経験によって変化するというマインドセットを持ちながら、自ら積極的に動くことを意識しましょう。脳を良い方向に発達させたいなら、適切な行動・環境が欠かせません。

楽しく継続する

私たちの脳の中では常にニューロンが生存競争をしています。行動を継続するとそれに関連するニューロンは脳の中で領土を広げ、行動をやめるとニューロンは領土を縮小します。そのため、特定の脳領域が大きくなっていき、大脳皮質を見れば素人目にも違いが分かるほどになります。

継続に加えて、重要なのは興味です。しぶしぶ受け身でやるのではなく、自ら進んで集中して練習した結果、脳が再編成されます。これはインプット、アウトプットのどちらにも言えます。

読書でただ文字を追うだけでは本の知識は得られませんし、何となくテレビやスマホの画面を見ていても何も身に付きません。興味関心をあるものに集中して取り組むからこそ、脳に良い変化を起こすことができます。スキルを身に付けたいなら、意識的な努力が必要です。

それでは、楽しく継続するための方法を紹介していきます。

  • 自分なりのやり方を模索する:自分が継続できて、楽しめるようにやり方を工夫しましょう。自分の状況に合わせて、やり方は適宜変えていくことが大切です。
  • 変化は徐々に:勉強習慣がない人がいきなり1日8時間を勉強しようとすると、挫折しやすくなります。最初はこれ以上小さくできないと思える行動から初めて、回数や時間を少しずつ増やしていきましょう。
  • やる時間を決める:自分のやりたいことを最優先で確保しましょう。運動や読書をするために、いつもより1時間早く起きたり、退勤後に時間を充てたりします。なるべく時間を固定して、頻繁に行うと習慣化しやすくなります。

人生における時間の費やし方を決める

人は1日24時間を誰でも平等に持っています。行動することで強化され、行動しないことで弱まるという脳の特徴を考えると、何に時間を費やすのかを決めることは非常に重要になります。なぜなら、時間の費やし方が、自分の能力を大きく決めるものだからです。

時間の平等性を考えると、「何を選ぶこと」は「何を選ばないのか」を決定することにもなります。仮に人生のすべてを一人で小説を書いている人がいるとすると、その人が身に付けられたかもしれないコミュニケーション、運動といった他の分野のスキルが弱まります。1つのスキルを高めようとすると他がおろそかになり、すべてのスキルを高めようとすると広く浅いだけの人間になってしまいます。

自分の価値観に沿って「何に時間を使うのか」を決めましょう。ここで大切なのは、障害も前提に入れたうえで、現状でベストな時間配分を考えることです。お金持ちになってから、子育てを終えてから、仕事のプロジェクトがひと段落するまで、と障害を乗り越えるまで自分のやりたいこと、良好な人間関係を育むことを犠牲にするのはやめましょう。生きている限り、障害はつきものですので、障害に対処する方法を決めて、日々の行動を決めていきます。

これまでは抽象的なお話だったので、「具体的にどうすればいいの?」という方のために、科学的な知見を踏まえて、個人的におすすめの活動を紹介します。

  • 健康:健康になるには食事、運動、睡眠の改善が基本です。7~8時間の睡眠、週150~300分の中強度の運動、野菜・フルーツ中心の食事から始めましょう。体のコンデションを整えると、活動のパフォーマンスが上がります。
  • やりたいこと:やりたいことに時間を費やしましょう。新たな仕事や能動的な娯楽のスキルを伸ばすといいでしょう。能動的な娯楽とは意識的な努力が必要な娯楽のことで、スポーツ観戦ではなくスポーツをする、動画を見るだけでなくその感想を発信します。
  • 楽しいこと:グルメ、動画鑑賞などのただ楽しいことを日々の生活に組み込みましょう。幸福を先延ばしにすると大きな幸福感や誇りの感情につながる一方で、罪悪感や不安を引き起こす可能性があります。目先の幸福を優先すると、さらなる楽しみとポジティブな感情が生まれることがニューヨーク州立大学らの研究で判明しています。目標に向かって努力する時間を確保しつつ、ただ楽しむ時間も作りましょう。
  • 人間関係幸福になるには良い人間関係が大事ということがハーバードの研究で判明しています。人と親密な関係を築いている人は長生きでメンタルも安定し、記憶力も良く、認知症にもかかりづらいとのこと。人間関係に投資するのは一生を通じて実りがあるので、自分の健康、スキルに時間を使った後は積極的に人間関係に費やしましょう。

また、良い人間関係を築きたいという方は、傾聴・共感、ユーモア、知性、誠実性などの他者から求められるスキルを意識的に身に付けるのが近道です。夫婦であれば、コミュニケーション、一緒に楽しめること、料理、家事に時間を使ってみてください。

まとめ:すべての経験が脳を変え、自分を形作り続けていく

あなたは、1日をどのように過ごしていますか?
SNS、スマホ、ゲームなど、様々な答えがあると思います。私たちは普通の日常をただ過ごしている思っていても、脳はその経験に関する脳領域を増やしています。裏を返せば、他の活動で脳領域を増やせるはずの機会を失っていることになります。

ダラダラと目的もなく毎日スマホを見ているという方は、その時間を使ってできる、友達や家族との楽しいひととき、やりたいことをするための自己研鑽ができなくなりますし、関連したスキルが成長することはありません。自分の死の間際を想像して、今の日常を振り返ってみて、「やらなければよかった」と後悔するような行動はやめて、「あのときやっておけばよかった」と思うようなやりたい行動をすることが大切です。

脳に関するおすすめ本

脳の地図を書き換える 神経科学の冒険

脳の地図を書き換える 神経科学の冒険
こちらの本は脳の柔軟性(可塑性)がどれだけすごいのかを最新の事例を踏まえて説明してくれています。
神経科学の視点でスキルを向上させる方法、人工的に第六感を作り出す手法などが分かります。
勉強や新しいスキルを習得したい、新しいことに挑戦したいという方に特におすすめです。

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