計画を立てるのが苦手
プロジェクトを成功させたい
このような思いを抱えていませんか。プロジェクトを任せられたら、「成功させられるだろうか」と不安になりますよね。
成功の有無を決めるのは「計画」です。計画と言っても机の上でじっと考えるようなものではなく、実験や検証を繰り返してクオリティの高いものにしていく能動的な計画です。
世界中の数々のビッグプロジェクトでアドバイスをしているベント・フリウビヤ先生の著書『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』より、「精度の高い計画の立て方、計画で一番大切なこと」を紹介します。
プロジェクトのような多大な時間や費用がかかったり、後戻り不可能なものは計画を周到に立てないと後悔することになります。個人ですぐに修正できるようなものはどんどん行動してかまいません。
プロジェクトに関わっている方、重大な決断をしようとする方におすすめです。
プロジェクトには計画が重要な理由
プロジェクトは膨大な時間や費用がかかるだけでなく、多くの人が関わり、複雑性がとても高いものです。数千億円、数兆円というプロジェクトは珍しくありません。
プロフェクトの計画が重要な理由は、失敗すると取返しのつかないものがほとんどだからです。とんでもない額の赤字、会社からの追放、キャリアが台無しになる、懲役刑になる、最悪、人命が失われることがあります。
プロジェクトは計画通りに進むことがほとんどなく、予算内・工期内に完了するものは全体の8.5%しかありません。しかも、当初に想定された便益をクリアするものという条件を加えると、わずか0.5%です。言い換えると、91.5%のプロジェクトが予算か工期・その両方をオーバーし、99.5%のプロジェクトが、予算超過・工期遅延・便益過小のいずれかに見舞われることになります。
几帳面と言われる日本人も例外ではありません。東京オリンピック2020の開会式の会場となる国立競技場の建築では、建築家のザハ・ハディド氏の壮麗なデザインの建設費用は当初1300億円と発表されましたが、実際には3462億円かかることが明らかになりました。安価な費用で建設できるようにデザインを変更しても2520億円かかることが判明し、デザインコンペをやり直すはめになります。最終的には、建築家の隈研吾さんのデザインに決まり、総工費は1569億円になりました。
計画段階フェーズで実行の詳細なシミュレーション、過去の類似案件のコストの見積りをしなかったため、一からやり直しという失敗につながったんですね。他国でも同様で、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、工期12年の予定が19年かかり、最終コストは88億ドルで予算を450%オーバーしています。スコットランド議会議事堂は完成予定より3年遅れ、コストは978%も超過しています。
プロジェクトは本当に必要?
プロジェクトは大幅なコスト、時間を使い、その成否は人の一生を左右します。工期、コスト、便益のどれかは99%以上で当初予定を達成できません。1つ達成できないだけでも自身のキャリア、評判を台無しになるリスクがあります。
プロジェクトで失敗しない方法は、「そもそもやらない」ことです。「なぜ、プロジェクトを行うのか?」を自問し、最終的に成し遂げたい目的と結果に対して、プロジェクトの実施が最も効果的なのかをじっくり検証しましょう。目的と結果を達成するうえで、本当にやらなければならないプロジェクトなのかを問いかけてみてください。
目標を叶えるためには1つだけということはなく、様々な方法があります。自分が選択できる一番効果的な手法を選べばいいのです。いきなり大規模なプロジェクトに着手するのではなく、小さく始めてみるなどリスクを小さく取ることも可能です。
目的と結果を考えると、プロジェクトをしなくても良かったという事例がたくさんあります。しかも、プロジェクトの実行期間が長くなればなるほど、地震や疫病などの災害、経済や政治の変化、技術の発展で不要になるなどの誰にも予想できないトラブルに遭う確率が高まります。
東京~大阪間を約1時間で走行するリニア中央新幹線は2011年に整備計画が決定され、2027年の先行(東京~名古屋)開業が目指されています。しかし、工事を開始してすぐに難航し、新型コロナによる工事中断、少子高齢化による人手不足、リニア計画への反対が起こっています。リニアは大部分がトンネル通過なので景色が楽しめないですし、IT技術の進歩により人の移動が必須ではなくなったため、リニアの必要性自体への疑問が出ています。
プロジェクトありきの結論になっていないかを考え、「なぜそれをするのか」をよく検討してください。
プロジェクトで一番危険なのは「まず行動」
プロジェクトのように後戻りができないもので、最悪のケースが「計画を立てずにまず行動」です。まず行動だと視野が狭くなり、1つの解決策に飛びつきやすくなります。
費用や工期、便益をじっくり検討せずに、見切り発車で行動すると予算が頭金化し、工期が遅れ、事故などの甚大な被害をもたらします。加えて、大きなプロジェクトは一度動き出したら、簡単に後戻りできませんし、後戻りしたとしてもコストや説明責任を負うことになります。
プロジェクトでは、「ゆっくり考え、すばやく動く」を実践してみてください。計画段階では容易にやり直せますし、計画のデータが消えるなどのトラブルは起きても容易に対処できる問題です。しかし、実行段階でのトラブルは、ウイルスのパンデミックで映画館が閉鎖される、トンネル掘削で岩盤が崩落して命を落とす、など取返しがつきません。
計画立案は安価で安全ですが、実行は高価で危険です。ずさんな計画は実行段階で問題が噴出し、問題対処に追われるばかりでプロジェクトがほとんど進まなくなります。1つの問題を解決しても、すぐに別の問題が起きてまた対処…といった負のループに陥りやすくなります。
最悪な結果を避けるために、十分な時間をかけて、実証済みの綿密な計画を立てましょう。すぐに行動するよりも、じっくりと計画を立てたほうが、結果的に早いスピード・低コストになります。
最も精度の高い計画立案法「参照クラス予測法(RCF法)」
参照クラス予測法(RCF法)は大規模プロジェクトの工期とコストの見積りに利用されており、イギリス政府など、世界中で使用されている手法です。
やり方は簡単で、自分が手がける予定の過去の類似プロジェクトの工期とコストのデータを集めて、平均値を求めます。これをアンカーにして、自分のプロジェクトが参照クラスの平均値に比べて、増減する理由があればアンカーを調整して、見積もりを作るだけです。
システム開発などのITプロジェクトをやることになったら、過去の類似のITプロジェクトが何年かかり、工期と費用がいくらかかったのかを調べます。その平均を求めて、自分のプロジェクトと比較して計画を調整したり、バッファを設けたりします。アンカーを調整するときは楽観バイアスで理想通りに物事を運ぶと仮定して、工期やコストを低く見積もらないように注意しましょう。
RCF法は過去のプロジェクトを参考にしているため、未知のトラブルも自動的に考慮でき、予測精度がずば抜けて高いことが大きなメリットです。具体的な行動が分からない場合は、経験者にやり方・アドバイスを求めたり、チームに入ってもらったりするといいでしょう。
計画で一番大切なこと
優れた計画立案には、「実験と経験」の両方を徹底的に活用する必要があります。
計画立案は、じっと座ってただ考えるのような受動的な活動ではありません。計画、作業予定、フローチャートのテンプレートを埋めるといった、中身がなく、面白みにかけた型通りの行動でもありません。
計画は目的の本質を踏まえたうえで、クリエイティブで深い思考を必要とする能動的な活動です。優れた計画はあれこれ試して、工夫を凝らし、何が効果的なのかを見極めて、また実験するということを繰り返します。実験のループによって経験が蓄積されて、上向きの学習曲線で自らのスキルを効率よく向上させることができます。
実験と経験の蓄積はクオリティを高めることができます。計画立案で試行錯誤を繰り返して、素晴らしい成果を上げた事例を紹介していきます。
- ビルバオ・グッゲンハイム美術館:ビルバオ・グッゲンハイム美術館は現代建築でもっとも称賛される作品のひとつであり、近代の最も重要な建築物との名声を得ています。建築家のゲーリー氏は設計案をまとめるために、紙にラフ画を書き、様々な積み木と紙を使って、機能的で美しい建築物の組み合わせを探しました。次に、木と段ボールで制作した模型や建築設計のソフトで、新しいアイデアを試したり、改良を加えたりして、同じプロセスを繰り返して洗練させています。その結果、見事な曲線を建築物で再現することに成功しました。
- ピクサー作品:「カールじいさんの空飛ぶ家」「インサイド・ヘッド」「ソウルフル・ワールド」の3作品でアカデミー賞を受賞した映画監督のドクター氏によると、ピクサー作品の制作プロセスは「実験⇨フィードバック」のフィードバックループを何度も行うことで作られています。12ページほどのあらすじを書き、脚本家、アーティスト、経営陣からフィードバックをもらい、あらすじを改良します。次に脚本を120ページ書き、同様のプロセスを2回ほど繰り返したあと、映画の簡易なラフバージョンを上映して、観客の反応を見るというフィードバックを8回ほど繰り返します。これにより、監督のコンセプトが細部に至るまで厳密に検証され、大体「バージョン9」で素晴らしい作品が出来上がるとのこと。
- リーンスタートアップ:リーンスタートアップとは、無駄を省きながら、顧客をより満足させる製品やサービスを開発していくマネジメント手法です。必要最低限の製品やサービスを短期間・低コストで作って、顧客に提供します。顧客の反応を見て、修正を加えていき、製品やサービスの質を高めていきます。コストや安全性、時間などを気にしなくてよいのなら、商品やサービスを提供して、顧客の反応を確かめるのが理想です。
トップレベルの建築設計、アニメ映画制作、経営手法などは計画段階で試行錯誤を重ねるという驚くほど類似した共通点があります。このようにクオリティを高めるには、実験と経験の両方が必要ということが分かります。
計画の成否に関わる3つの要素
計画段階で綿密に計画して、失敗させないための3つの要素を紹介します。
1、経験者を入れる
大規模プロジェクトでは経験者をチームに引き込みましょう。
知識には表面的な知識である「形式知」と経験的な知識である「暗黙知」の2つがあります。形式知はマニュアルや本で得られますが、暗黙知は実際に経験しないと得ることができません。そして、最も有用な知識の多くは、形式知ではなく、暗黙知です。
経験者は豊富な形式知、暗黙知を持っています。経験者は過去の経験から裏打ちされた2つの知識を使い、より効率的な方法を提案したり、トラブルに上手く対処したりできます。
専門家は科学的検定で本物と鑑定された古代ギリシャ彫刻を瞬時に贋作だと見抜くことができます。専門家自身もなぜおかしいと感じたのかを言葉にできませんでしたが、長年の経験的知識による直感で見破ることができたのです。
専門家の直感はただの勘ではなく、信頼性の高い「熟練した直感」です。大きなプロジェクトでは必ず経験を積んだ専門家をチームに入れましょう。
2、よくある失敗をつぶす
大きなプロジェクトには予期せぬトラブルがつきものと説明しましたが、予期できるトラブルもあります。
予期できるトラブルは過去のプロジェクトのトラブルから発見できます。過去の失敗を集めて、事前に対策を講じていれば、失敗の大部分は避けられます。経験者から事前に話を聞くと、さらに安心できるものになります。
計画立案で91.5%のプロジェクトが予算・工期・その両方をオーバーすることを知っていれば、参照クラス予測法(RCF法)を使い、正しい見積もりができるでしょう。さらに余裕を持たせたいなら、コストや期間を多めに調整してください。
過去や他人の失敗から学んで対策することが重要です。
3、モジュールで作る
モジュールを使って小さく始めることで低リスクで圧倒的な成長をもたらします。モジュールとは単体でも機能する小さいものです。
モジュールのイメージとしては、レゴです。レゴブロック単体でもブロックとして機能していますが、ブロックが集まると建築物や船など様々なものを表現できますよね。
モジュールの強みは実験と経験がすぐに蓄積できることです。小さなものを低コスト、短期間で作成できるため、フィードバックループのサイクルを早く回せます。質が高くなりますし、小さなものなので工場で大量生産でき、高クオリティのものが早いスピードで作れます。
モジュールを取り入れて成功した例はエンパイア・ステート・ビル、ウエディングケーキ、ソーラーパネルなどたくさんあります。最近では、テスラの自動車工場も小さな工場を次々に作って統合させるというモジュール形式を採用しています。
プロジェクトを計画する際はモジュールを取り入れられないかを考えてみましょう。
まとめ:一度決めたら後戻りできない決断はじっくり考える
プロジェクトはうまくいかなくなるのではない。最初からうまくいっていないのだ。
ベント・フリウビヤ(メガプロジェクト研究者)
人生の大きな決断はゆっくり考えたうえで行動しましょう。他人の事例、専門家、本などを参考にして、ありがちな失敗にひっかからないようにしてください。避けられるミスで一生の後悔となるのはもったいないですよね。
大きなプロジェクトであれば過去の案件からコスト、工期を算出し、経験者を引き入れ、モジュール性を取り入れましょう。個人であれば、リーンスタートアップでYouTube、小さな店舗経営、個人のスキルを売るなどから小さく始めるといいでしょう。実験と経験を積み重ねられれば、後から大きなリターンが返ってきます。
大きなプロジェクトではコミュニケーション能力が大切です。コミュニケーション能力は自分の魅力度で決まるため、魅力を高める正直さが欠かせません。「自分に正直に生きると人生が楽しくなる!メリットと実践法」を参考にしてください。
個人では実験と経験をひたすら積みましょう。物事を継続するためのテクニックは以下の記事をご覧ください。
個人でも自分が取り組みたい人の分野で成功するまでの時間やコストなどを知っておくと役立つと思いました。ネットでは半年で月収100万円を稼いだ方法などとよく書いてあるので、自分は才能がないと考えてしまいますが、実際には成功している人でも芽が出るまでに膨大な時間がかかっていることがほとんどです。本当の現実を踏まえたうえで、試行錯誤で専門性を高めていくといいでしょう。