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選択のパラドックス:選択肢の多さがもたらす不幸

2023年8月30日

パートナー、仕事、何をするか、などの選択肢は多ければ多いほど良いと考えていませんか?大多数の人はこのように考えますが、実は勘違いかもしれません。

現代社会は昔に比べて、選択肢の数がほぼ無限といっても過言ではありません。食事は和食だけでなく世界中の料理から選べますし、パートナー探しもマッチングアプリによって無数の相手の中から選べるようになりました。これ自体は望ましいことなんですが、選択肢は絞られていたほうが人を幸せにします。

多すぎる選択肢は大きな労力がかかり、モチベーションを下げて、不満を引き起こすぞ」というコロンビア大学らの研究を紹介します。一般的に多い選択肢から選んだほうが満足度が高く、やる気も上がると思われていますが、それは違うんじゃないか?というのが研究のテーマですね。

この科学論文は選択肢の数に関する3つの実験から構成されていまして、実験1がジャムの種類と購入意欲、実験2が小論文のテーマの種類と提出数、作品の質、実験3がチョコレートの種類と選択肢の数への心理的評価を調べたものとなっています。

実験1では、高級食料品店の中で6種類、あるいは24種類のフレーバーのジャムを陳列したブースを設けました。このブースでは買い物客がジャムの試食および購入ができ、ジャムの種類数の違いによって、ブースに立ち寄った人数、試食数、購入数を調査しています。

実験に使われたジャムは英国王室御用達の高級ジャムメーカーのウィルキン&サンズ社のものです。ちなみにウィルキン&サンズ社はこのように豊富なラインナップとなっています。

結果は、

  • 24種類のジャムを陳列したブースを通過した242人のうち、実際にブースに立ち寄ったのは145人(60%)。平均1.50個のジャムを試食し、購入者数は4人(3%)だった。
  • 6種類のジャムを陳列したブースを通過した260人のうち、実際にブースに立ち寄ったのは104人(40%)。平均1.38個のジャムを試食し、購入者数は31人(30%)だった。
  • 24種類のジャムのブースは足を止める人が多かったが、6種類のジャムのブースのほうが購入者数が多かった。購入者の数は6種類のジャムのブースのほうが24種類に比べて、10倍になった。
  • 選択肢が多いと魅力的に見えるが、実際は少ない選択肢のほうが購買意欲が高くなった。

とのこと。

豊富な選択肢は買い物客にとって最初は魅力的に見えますが、その後の購買意欲を減退させる可能性があることを示しています。「選択肢が多すぎる」ことが、買い物客の購買意欲を妨げているみたいなんですね。

実験2は大学生を対象にしていまして、授業で映画『十二人の怒れる男』の鑑賞した後、6つのトピック、または30のトピックの中から1つを選んで、小論文を書いてもらいました。参加者は小論文を書くことで中間試験で2点の追加得点が得られるようになっており、トピック数の違いによる提出率と小論文の質を調査しています。

その結果、

  • 6つのトピックから選択したグループは、74%が課題を提出した。一方、30のトピックから選択したグループは、課題を提出したのは60%だけであった。
  • 6つのトピックから選択したグループのほうが小論文の質が高く、良い成績を収めた。

だそう。

これも実験1の結果と同じで選択肢の数の多さがモチベーションを下げています。さらには、提出された小論文の質も落ちていたので、主体的に取り組む意識も減らしているんですね。

実験3では、参加者に30種類のチョコレート、あるいは6種類のチョコレートから1つを選んで試食してもらい、満足度に関するアンケートに答えてもらい、報酬として5ドルのお金を受け取るか、5ドル分のゴディバのチョコレートをもらうかのどちらかを選んでもらいました。

その結果は、

  • 選択肢の数の違いによる「満足度」「最適化(一番良いチョコを選んだという感覚)」の違いはなかった。
  • 30種類のチョコから選んだ参加者は、6種類のチョコグループに比べて、有意に楽しんでいたが、選択に大きな労力がかかると感じ、ストレスになると回答した。
  • 報酬としてチョコを選んだのは、6種類のチョコグループのほうが多かった。

とのこと。

選択肢が多すぎると、選ぶ人の負担になるということですね。確かに、一番良いもの、一番安いものなどを探すのは疲れますからね。

研究者曰く、

数多くの選択肢に直面した人は、選択プロセスをより楽しんでいるが、同時に、自分の選択に責任を感じており、その結果、選択プロセスに対する欲求不満や選択に対する不満が生じることを、経験的に裏付けていることがわかった。実際、広範選択条件の参加者は、意思決定プロセスがより楽しく、より難しく、よりフラストレーションのたまるものであったと報告している。実際にチョコレートを試食した後、30種類のチョコレートの中から選択した参加者は、6種類のチョコレートから選んだ参加者よりも、自分の選択により大きな不満と後悔があったと報告した。

だそう。

多くの選択肢から選ぶと、選択すること自体が難しい、ストレスが溜まるものと感じるだけでなく、選んだ後も大きな不満と後悔が残るんですね。売上ナンバーワンやイチオシの商品が人気なのも納得です。

現代社会において選択肢が多いほど人は不幸を感じやすくなるという心理作用は「選択のパラドックス」と言われております。この論文では対処法が書いてありませんでしたが、個人的にはとりあえず3つに絞った上で1つに決めるのが良いと思います。ジョージタウンらの大学の研究によると、説得力を高める数は3つがベストという結果になっていますからね。

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